「語るものではなく、語られる話こそ」
 宇佐見蓮子はマエリベリー・ハーンに誘われ、古風なクラブへと赴く。
 そこには極上の酒と無数の本、そしてなにより、誰かの語る素敵な物語があった。


 「京都奇譚倶楽部」

スティーブン・キングの中編集をオマージュした「それぞれの四季」第3弾でございます。
シリーズと言っても話は繋がっていないので、こちらだけでもお楽しみいただけます!
頒布価格:500円
ページ数:40P
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 「なるほど、どちらもそれぞれの良さがある、と。ねえメリー、ギムレットでも飲む?」
 「いただこうかしら。その代わり、ちゃんと本当のギムレットをお願いね」
 キッチンへ向かい、ジンとローズ社のライム・ジュースを取り出す。それらと氷をミキシンググラスへ入れ、バースプーンで混ぜる。それほど頻繁にやっている訳ではないので自信はないが、これで完璧なはずだ。グラスに注ぎ、隣の部屋へと戻る。私はメリーの傍へ腰掛け、『ロング・グッドバイ』を彼女から取り上げた。空いた手に、我らが愛しきフィリップ・マーロウとテリー・レノックスが嗜んだカクテルを滑り込ませる。
 「乾杯」
 愛しき相棒とカクテルを飲み交わす。これ以上の幸せなどあるのだろうか? 

歳月が過ぎていった。その長い歳月の間に、いくつもの話が披露された。しかし、よく考えてみれば、紫の話はまだ一度も聞いたことがなかった。
 「次のクリスマスなのだけれど……たまには私にも語らせてほしいわ。どうかしら?」
 その言葉には私だけでなく、他の人々も大いに驚いていた。驚き、期待をしたからこそ、私はあんな大雪の中を走ってきたのだ。
 クリスマス特有の、熱気を含んだ和気藹々とした空気が心地いい。

 
 
 
 
 
 
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